「まだ元気だから大丈夫」
「家族の仲がいいから、きっと揉めない」
「実家のことは、そのときになってから考えればいい」
相続について、そう思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ相続が発生すると、お金のことだけでなく、実家や土地の管理、家族間での話し合い、さらには認知症など、さまざまな問題が一度に関わってきます。
そこでムラオカグミでは、相続をもっと身近なこととして考えていただく機会として、2026年7月20日(月・祝)に横手市民会館、翌21日(火)には秋田ALVE多目的ホールにて、「落語で相続 in 横手・秋田」を開催しました。
講師を務めてくださったのは、相続専門の税理士であり、社会人落語家としても活動する参遊亭英遊(石倉英樹)さんです。
第1部では、落語を交えながら相続の基本を楽しく学び、第2部では「どうする?『秋田の実家』今からできる相続対策」をテーマに、相続・住まい・不動産について考えるトークセッションを行いました。
笑いあり、学びありの2日間。当日の様子をレポートします。
【第1部】落語で相続|笑いながら知る「相続の本当のところ」
会場に着物姿で登場したのは、参遊亭英遊さん。
「三遊亭ではなく、参上する方の『参遊亭』でございます。間違って来ちゃった方、いらっしゃいます?」
そんなユーモアたっぷりの自己紹介からスタートし、会場は一気になごやかな雰囲気に。
相続専門の税理士として数多くの相談を受けてきた経験をもとに、実話をベースとした落語と分かりやすい解説が繰り広げられました。
「銀行はバレるから庭に埋める?」相続税の勘違い
相続税について、英遊さんがよく受けるという質問が、「どうやったら相続税を払わないで済みますか?」というもの。
あるお父さんは、「銀行に預けておくと税務署に分かってしまうなら、自宅に置いておけばいい」と考えたそうです。
ところが、そのお父さんの家の庭にはなぜか大きなスコップが……。
「税務署はすごいですよ。皆さんがどの銀行のどの支店にいくら持っているか、お通帳を見せなくても分かる。ただ、節税と脱税は違う。節税は制度の範囲内でどんどんやっていい。でも、穴を掘って埋めるのは脱税でございます」
もちろん、庭に埋めるというのは落語ならではの冗談。
その後、「どこに埋めたか忘れそうだから」という理由で、お父さんが結局穴を掘るのをやめたというオチに、会場は大きな笑いに包まれました。
相続について正しく知り、制度を理解したうえで対策することの大切さを、身近なエピソードを通して学ぶことができました。
「110万円までならOK?」知っておきたい生前贈与のルール
続いて紹介されたのが「生前贈与」です。
生前贈与とは、亡くなる前に財産を子どもや孫などに渡しておくこと。贈与税には年間110万円の基礎控除があり、代表的な相続対策のひとつです。
法律上、誰かに財産を贈ること自体は自由で、他人に贈ることもできます。
「道を歩いていて、『あの人、感じがいいな』と思ったら110万円あげてもいいんです。私にくれても結構です」
会場が笑いに包まれる一方で、重要なポイントも説明されました。
それが、相続開始前の一定期間内に行った贈与については、相続財産に加算して相続税を計算するルールがあるということ。
以前は「3年」が基本でしたが、税制改正により、対象期間は段階的に「7年」へ延長されています。
つまり、生前贈与は「亡くなる直前に慌てて始める」のではなく、できるだけ早い段階から、家族の状況に合わせて計画することが大切です。
「110万円までなら何をしても大丈夫」という単純な話ではないことを、笑いながらもしっかり学ぶ時間となりました。
3,000万円の土地が600万円に?小規模宅地等の特例とは
次に紹介されたのは、自宅の土地を相続するときに知っておきたい「小規模宅地等の特例」です。
「お父さんが亡くなった。でも、お母さんは引き続きその家に住む。このときに土地に相続税をかけすぎちゃうと、お母さんも大変なことになります。そこで税務署が土地の値段を割り引いてくれるんですが、さて、1割、3割、5割引き……どれくらいだと思いますか」
参加者がそれぞれ予想するなか、答えは選択肢にはない「8割引き」。
「ジャパネットたかたでも8割って聞いたことない」
ここでも会場から笑いが起こりました。
小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たすことで、自宅として使っていた土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
たとえば、対象となる土地の評価額が3,000万円なら、600万円まで評価額を下げられる可能性があるといいます。
ただし、誰でも使えるわけではありません。
配偶者が自宅を相続する場合や、同居していた子どもが相続する場合など、一定の要件があります。
「自分の家族だったらどうだろう?」
そんなふうに、それぞれの状況を思い浮かべながら話を聞く参加者の姿が印象的でした。
「揉める家は揉める」だからこそ遺言を
第1部の最後に取り上げられたのは、「相続で揉めないためにはどうすればいいか」というテーマです。
相続というと、「財産がたくさんある家庭ほど揉める」と思われがちです。
しかし、実際に相続相談を受けてきた経験から、英遊さんはこう話します。
「持ってる家は持ってる家で揉めている。持ってない家は持ってない家で揉めている。相続で揉めるかどうかは、お金の多さにあまり関係なかった。結論はこれです。揉める家は、揉めるんでございます」
では、どうすればいいのか。
その一つが「遺言」です。
誰に何を残すのかを元気なうちに決めておくことで、相続人同士の話し合いをスムーズにし、トラブルを防ぎやすくなります。
ところが、日本では遺言を残して亡くなる人は、決して多くありません。
その理由について英遊さんは――。
「日本人が遺言を書かない本当の理由、とうとう謎が解けました。実は皆さん、自分だけは死なないと思ってる。……死にますよね。死亡率は100%でございます」
会場は笑いに包まれながらも、「いつか」ではなく「今」考えることの大切さが伝わる、落語ならではの締めくくりとなりました。
【第2部】どうする?「秋田の実家」今からできる相続対策
第2部では、着物からスーツ姿に着替えた石倉英樹さんが税理士として登壇。
さらに、一般社団法人日本人の健康をつくる住宅断熱リフォーム推進協議会事務局長の小松昭さん、そしてムラオカグミ代表の村岡洋平も加わり、「どうする?『秋田の実家』今からできる相続対策」をテーマにトークセッションを行いました。

話題となったのは、秋田ならではの「実家」と「相続」の問題です。
「親も子も話したいのに話せない」“お見合い相続”という問題
進学や就職をきっかけに、子どもが県外で暮らすケースも多い秋田県。
お盆やお正月に家族が集まっても、楽しい時間のなかで「相続」や「実家」の話を切り出すのは、なかなか難しいものです。
石倉さん:
「親も話したい。子どもも聞きたい。お互い気持ちはあるのに、言葉に出せない。これを我々は『お見合い相続』と呼んでいます」
そして、親が亡くなった後に問題になりやすいのが「実家」です。
話し合わないまま相続が発生すると、誰が実家を管理するのか、住む人がいない家をどうするのかといった問題が浮上します。
相続の問題は、財産をどう分けるかだけではありません。
「実家を誰がどうするのか」。これも、元気なうちに話しておきたい大切なテーマです。
認知症になると預金も家も動かせない?
続いて話題になったのが、親の認知機能が低下した場合の財産管理です。
石倉さんは、銀行の窓口でのやり取りを再現します。
石倉さん:
「『母の定期預金を解約したい』と子どもが銀行に行っても、『ご本人を連れてきてください』と言われます。そこで『実は母、認知症になって施設に入ったんです』と言ったらもうストップです」
本人の判断能力が低下すると、預金の引き出しや不動産の売却など、財産を動かすことが難しくなる場合があります。
実家を売却したいと思っても、所有者本人が判断できなければ手続きを進められません。
遺言も同様に、判断能力がない状態で作成したものは法的に有効と認められない場合があります。
相続対策というと亡くなった後のことを考えがちですが、その前に起こる可能性がある認知症への備えも大切だということを学びました。
家も年を取る。見落とされがちな住まいの健康リスク
秋田県は持ち家率が高く、一戸建てに住んでいる方も多い地域です。
しかし、親が年齢を重ねるのと同じように、家も年を重ねていきます。
古くなった家では、段差による転倒や、冬場の室内の温度差によるヒートショックなど、住む人の健康に関わる問題も起こりやすくなります。
石倉さん:
「65歳以上の転倒事故の8割は、家の中で起きているというデータがあります。それから冬の寒さが厳しい秋田では、暖房の効いた部屋と脱衣所・浴室などとの温度差にも注意が必要です。実際、秋田市消防本部の調べでは、過去5年間に844人がヒートショックに関連して救急搬送されているそうです」
こうした話を聞くと、「家はただの資産ではない」ということに気づかされます。
これからもそこで暮らす人が、安全で健康に暮らせる家なのかーー。
そんな視点から住まいを考えることも大切です。
「健康被害や住まいについては、対策次第でなんとかなる」。
ということで、ここからは「一般社団法人日本人の健康をつくる住宅断熱リフォーム推進協議会」の事務局長である小松昭さんに話が引き継がれました。
「暖かい家は資産です」住まいと健康の深い関係
小松さんが語ったのは、「健康寿命を延ばすための住まい」という視点です。
食事や運動だけでなく、毎日過ごす家の環境も健康に大きく関わると話されました。
小松さん:
「寒い家、暑い家で暮らすことは、単にちょっとつらいというだけではありません。住まいの断熱性能を高め、家の中の温度差を少なくすることは、これからも安心して暮らしていくための一つの備えになります」
小松さんからは、室温と健康に関する研究や、住宅の断熱性能を高めたことで健康面の変化を感じた事例なども紹介されました。そして、印象的だったのがこの言葉です。
小松さん:
「暖かい家は、間違いなく資産です」
相続する「財産」としてだけではなく、これからも安心して暮らすための「住まい」として家を見る。
相続と住宅が、実は深くつながっていることを実感する時間となりました。
「実家を解体したい」その前に考えてほしいこと
後半のトークセッションでは、ムラオカグミ代表の村岡洋平から、実際に寄せられる「実家の相談」についてもお話ししました。
村岡:
「最近増えているのが、県外に住む子ども世代からの『実家を解体して更地にして売りたい』というご相談です。しかし更地にしてしまうと、かえって売却が難しくなることも多いんです。もう少し前の段階でご相談いただけていたら、別の選択肢も提案できたかもしれないと思うことがあります」
もちろん、建物の状態によっては解体が適切なケースもあります。
しかし、解体する前に「リフォームして活用できないか」「貸すことはできないか」などを考えることで、選択肢が広がる可能性があります。
実際に相続が発生してからでは、時間的にも精神的にも余裕がないケースは少なくありません。
だからこそ、相続が発生してからではなく、早い段階で専門家に相談することが大切です。
相続は、家族で話すことから始まる
今回の「落語で相続 in 横手・秋田」では、笑いながら相続の基本を学び、秋田ならではの実家や土地の問題について考え、さらに住まいと健康の関係についても知ることができました。
相続は、いつか必ず誰もが向き合うテーマです。
だからこそ、「まだ先のこと」と後回しにせず、元気なうちに家族で話してみる。
実家についても、「壊す」「残す」だけでなく、これからどう活かしていくのかを考えてみる。
今回のイベントが、そのきっかけになれば幸いです。
ムラオカグミでは、相続した実家をどうするか、リフォームか建替えか、空き家の管理や土地の活用など、住まいに関するご相談を承っています。
「何から考えればいいかわからない」という段階でも構いません。
相続や実家のことを「また今度」と先送りする前に、まずは家族で話すことから始めてみませんか。